青身三点盛りと清酒二杯の至福@虎ノ門升本

おでんを頂くつもりではせ参じたらまだやっていないとのこと。コンビニエンスストアで見るものだからここでも始めているだろうとは安い当たりをつけたものだ。ならば魚だ。青身の三点盛りを頂こう。酒はまずは虎ノ御門。コップに浅い小皿を敷いて並々次いで300円。これは清酒だ。このところついぞ聞かなくなった「清酒」だ。酒が細分に進化する前、ただ飲むための日本酒だ。
やや辛口で飲みやすい。
口で迎えて持ち上げて小皿のふちに滑らせて底についたを追いやってそれでも滴るを手拭きで拭って、半分になったところで小皿の分をえいと流し込んで、そんな一人遊びに興じているうちに刺身が届いた。

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や、これはまた美人である。
左から秋刀魚、鯵、鰯。
けんとトサカノリこんもり敷いて、上に大葉の座布団当てて、凛と居並ぶ三人娘。
さぁどれから食べてやろうかのう、と、まるで悪代官のような気持になるのも無理からぬ。
紫芽、生姜、かぼすの緑も鮮やかに。

箸をつける。

鰯はこれでもかと脂がのっておる。舌にのせると溶けてゆく。や、これは、うん、よく太っておる。
鯵は鰯の柔弱の後には想定以上の噛みごたえである。青魚なのだからこりこりとまではいかないがこりこりといってもいいぐらいのみっしりとした噛みごたえである。
秋刀魚はよくぞこのように美しく出してくれたという気持ちになる。秋刀魚うまい。一番うまい。柔らかからず堅からず、しみじみと咀嚼するたびにすんなりとした旨さが口の中を満たしてゆく。
けんもいい。
機械でやっつけたところだとけんが変に長くて麺料理を食べているような気持になってくる。それがない。つまむにちょうどよく、しゃきしゃきとみずみずしく見栄えのするうまいけんである。トサカノリもよし。かすかな潮味とこりこりした歯触りはよい気休めになる。刺身もけんもつまも皆半分程片づけたところでもう一杯をお願いした。
霞が関。
これは少し高いだけあってややこくがある。だが清酒は清酒である。江戸時代の居酒屋にありそうな、名はあるけれど名のないような清酒である。特筆すべきところがないのがいい。
小ジョッキで和らぎ水を頂き、酩酊に駆け込みそうな五体を引き留めながら、後半どう攻めるかのうと戦略ともいえぬ戦略を脳内で弄ぶ。大した考えがあるわけではない、ただ、これからいくかこちらかと楽しく迷いながら刺身を見比べるのが実に楽しいんである。
では、と鰯を頂いた。途端に失敗に気付いた。鰯は魚に弱いと書くが、そうして鮮度は何よりかにより落ちやすいとは聞いていたが、ここまでとは! ほかの子をかまっている10ほどの間で、その表面を覆っていた艶めかしい脂が微かに酸化してしまい、一等最初とはほんの少し異なる香りになっていた。これはさっさと片づけてしまわなければならない案件だったのか、悪いことをしたなぁ、などと思いながらいただく。別段味が悪くなったわけではない。ただ、香りがほんの少し、もったりと脂じみただけである。
他の青魚も心配したが、鯵も秋刀魚も、自分らはそんなに脆弱じゃないんでと言いたげに少しも変っていなかった。
鰯の変化はそれ以上進まないようだったから、自由気ままにあれやこれやと頂いていくことにした。鯵はやはり質実剛健である。切り方が分厚いのもあろうが、しっかりとした味わいである。鰯はやはり柔弱で、舌の上で纏った脂もろとも溶けかかるような艶っぽさ。秋刀魚、これは少しく若い青年のようで、背筋を凛と、硬すぎもせず、銀色に美しく、そして、美味い。

あまり薬味に生姜を使わず、卓上の醤油だけできれいに平らげ、卓を拭き、手を合わせ、目を瞑り、
(これから魚が食べたくなったらここに参りますので爾後お見知りおきを)
と念じてしまいにしたのである。

升本
虎ノ門駅至近
虎ノ御門 300円
霞が関 350円
青身三点盛 850円
〆て1,500円の至福也。
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    プロフ画像は山田芳裕著「へうげもの」より。古織いいよ古織。
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