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薔薇館のこと

もう三十年も前のことになるか。
大船駅の商店街を右手に行って暫く、変哲ない建物の二階に、薔薇館という喫茶店があった。
真鍮の金具で飾られたクラシカルな調度、仄暗いシャンデリア、漆喰の壁には道から見上げたとおりの飾り窓、ヘッドドレスをつけた英国調のメイドと撫で付けた髪のギャルソンが端正にもてなしてくれる、今思えばおそろしい場所だった。

そこを初めて訪ねたのは、まだ中学の時分だった。

近くの塾に通っていた私は、通りに出ていた瀟洒な立看板に惹かれ、細い階段を上がった。
ブレンドが400円、カップ近くから注ぎ始めながら徐々にミルクと珈琲二つのポットを高くさし上げてゆき注ぎ終わる頃には両の肘がまっすぐ伸びている、そんな技巧的な淹れ方をしたカフェ・オ・レが確か、5・600円。
そのカフェ・オ・レの極端な淹れようが面白くて、大学を卒業してからも通ったものだった。
そういやぁマレーネ・ディートリッヒの退廃的な歌声に出会ったのも、その店の蓄音機を通してだった。

そのうち、マスターがあれこれの衣装に身を包んだ写真のパネルが店内に飾られ始めた。
それはこれまでの作りこんだ流儀にまるでそぐわず、それゆえ私はその店の終焉を予感した。
そうしてその予感の通り、半年ほどしてその店は居なくなってしまったのだが。

じき建物自体も建て替えになってしまったので、あれは或いは店じまいの前の余興のようなものだったのかもしれないと、今となっては思うのだ。
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ネコタ斑猫

  • Author:ネコタ斑猫
  • オリジナル百物語サイトバー理科室の管理人。本家サイトでは400字×20枚内読み切り短編連載中。死ぬまでに千物語を完成させるのが目標。
    プロフ画像は山田芳裕著「へうげもの」より。古織いいよ古織。
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