リチャード・ドーキンス「進化の存在証明」

進化論を信じない人たちのためにかかれた本。
なわけで、いつもの読み手に向けるような手練れ感がなく、噛んで含んで言って聞かせてそれでもどうせ君たちは耳をふさいでいるのだろうけれどもでも僕は科学者の責務として噛んで含んで言って聞かせることを止められないんだよ…というような非常に切ない本である。
流れとしては、生物学の丁寧なおさらいである。ドーキンス先生が、小学校入学したてのまっさらを相手どるように、信じるものも信じぬもの皆等しく説いてくださる。なぜ私たちはここにいるのか。なぜ私たちはかくあるのか。
生とはつまるところ壮大なるピタゴラスイッチである。私は、発生の開始にせよホルモンの分泌にせよ「何故そのスイッチが入るのか」を理解し切れていなかった。大変な間違いだ。個体は化学的または物理的な刺激が充ち満ちている解放系の中で刺激に対する受容体を体中に装備している感受性の塊に過ぎないという認識の不足。原初生命が境と自己同一性と増殖への欲動を持たされたそのときに最初のスイッチが入り、そこから先はただのピタゴラスイッチ。連綿と続くドミノ倒し。停止は即ち個体の死。「このホルモンが分泌されることによってこの臓器の発達が促され…」それは少しも不可解ではない。このホルモンが分泌されることの前には内外からのスイッチがある。遡れば数えきれぬほどのスイッチがあり、そしてそれはたぶん、生命よりもさらに前、宇宙の始まりそのものが一番最初に発動したピタゴラスイッチ。

で。

そういうことをまるで小学生のように学び直せたというのが一つの収穫。もう一つの驚愕すべき収穫とすらいえない号泣すべき事実。

単純化して言おう。アメリカにはなんとまぁ、進化論を信じない人々が44%もいる!(2008年、ギャラップの調査より)

うそだろう?

ほんとうだ。

そんなホラーがあるのか? そんなホラーが。どんなホラーよりも恐ろしい当代随一の怪談が?
あんなにも切り立った科学論文が日々発表されているアメリカで? あんなにも鎬を削る研究が今もなされているアメリカで?
まさか、
「神は人類を、現在と非常によく似た姿で、ここ一万年ばかりのうちに一遍で創造した」と信じている人が44%もいるだなんて!

(ありえないなんてことはありえない)

こんなことを信じられないのは、日本人ゆえの幸いかもしれない。
2005年ナショナルジオグラフィックの調査では、日本では進化論を支持している人が80%だったという。
聖書をいただくことによる視野狭窄を赦された結果か。
しかれども、その数値を聞いても薄い不安が胸をよぎる。
五人集めたら一人は
「猿が人間になった? へへっ、またまたご冗談を」
と言い出すとでもいうのか? この日本で?
で、アメリカに行けば、
まるで進化論は、宗教の一つのように見なされるとでも言うのか?

ドーキンス先生は以前
「悪魔に使える牧師」
という本を書いている。
そんな爆弾のような表題の本を表沙汰にしてでも覆したいものが、否、覆さねばならないものが、彼の目の前にあったのだ。
そして今もあり続けているのだ。

私は日本人であることを誇りに思う。系統樹を愛することを誇りに思う。そして、願う。
ヴァチカンの上層部と同じように、無邪気なカソリックの信者も、聖書は修身として手本にすべき部分は大いにあれど実のところその本質はファンタジーに過ぎないと認識することを。

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Re: めりーくりすます

ありがとうございます。
あんなにも先端の研究をしている地平であるのに
なぜこれほどにも進化論が無理解であるのか。

ばかだといってしまいにします。

ネコタ斑猫 拝

めりーくりすます

いつも興味深く読ませていただいてます。ありがとうございます。

たまたま、今読んでいる本に、進化論VS創造論・創造科学の話題があったので
ちょっとご縁を感じまして、コメントしちゃおうと思った次第です。
80年代に、学校で進化論を教えるとか教えないとか裁判をしていたハナシとか、
アメリカでの創造論の根の深さにはびっくりします。
私が読んでいるのは「疑似科学と科学の哲学」という本なのですが、
このトピックスを扱っている章には“創造科学のしぶとさ”なんていう節が
あったりします。

日本に生まれてヨカッタと思いつつ、くりすますにはちゃっかり便乗している私ですが!笑
それでは。
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ネコタ斑猫

  • Author:ネコタ斑猫
  • オリジナル百物語サイトバー理科室の管理人。本家サイトでは400字×20枚内読み切り短編連載中。死ぬまでに千物語を完成させるのが目標。
    プロフ画像は山田芳裕著「へうげもの」より。古織いいよ古織。
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