ネコタ斑猫、Bistro Marsanneにて食材への誠実さを知ること

神田駅西口を出て西口商店街に入り、新生銀行のATMコーナーで右に曲がり、そのままずっと道なりに歩いて左手先の十字路にガソリンスタンドが見えてきたと思いねぇ。
その右手に顔を向けて、ビルが少し屈んだように奥まった一階に目を凝らすと、その小体な店が見つかるだろう。

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何しろ場所が神田だ、ガード下は昔ながらの立ち飲みなんかの天国だ、そういう町に少し相応しくなくそれゆえにこそそこいらで働く女性たちには待ち望まれていたようなこじゃれた料理やがこのところいくつも出来始めているのだけれども、この店は確かにその内のしかも筆頭を争えるような一に数えられよう。
ガラスに白でフランス語なぞ書き散らしてある、店の色調は全体落ち着いたボルドーとマホガニーだ。右手の窓沿いにテーブルが三つ、左手正面真っ直ぐには二列にテーブルが五つずつ並んでいる。どれも二人掛けだ。右手奥はほぼ真四角の厨房だ。シェフが実に手際よく立ち働いているのが窺える。

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1200円のプリフィクスランチを頂いた。
このプリフィクス、
前菜
ニシンのマリネを合わせたポテトサラダ/セロリのポタージュ/キッシュロレーヌ より一を選ぶ

主菜
タラのポワレ 根菜添え あさりのクリームソース/きのこリゾットを巻き込んだチキンのバロティーヌ トマトのソースで より一を選ぶ

自家製パン

コーヒー或いは紅茶
という次第になっている。

自分は
キッシュロレーヌ

チキンのバロティーヌとやら
を選んだ。

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キッシュロレーヌ。
こんなこじゃれたものを子どもの頃に食べ付けたはずもないのに、こういうものを食べた感想を修辞しようとすると
「懐かしい」
という文句が出てくるのは如何いうわけか。玉子というのはそんなにも郷愁に響く食材なのか。
玉ねぎとベーコンの入った、非常に素朴で真摯な味わいだった。

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「きのこリゾットを巻き込んだチキンのバロティーヌ トマトのソースで」
である。
長い。
料理名が。
大体バロティーヌとは何か。少しおてんばな女の子の名前か。
茶色の髪を断髪にした年の頃15位のオランダ系フランス娘ではなかろうか。
何を書いている。
閑話休題、バロティーヌを調べてみたところ
ballottine(女) バロティーヌ [料理名] 肉に詰めものをして筒状に丸め、煮た料理
とのことであった。
やはり女性であったか。
落ち着け。
このバロティーヌ、どういう作りかというと、
鶏の腿肉(しっとりしていたので腿だと思ったが胸かもしれぬ)を均等に削いだものでリゾットを包み芯に鶏のハツを入れこむ
とやたら凝ったものであった。
これが美味い。
トマトの煮たのを敷いてそこに大根半月人参半月かぼちゃの薄切りをやっぱり一緒に煮たのを添えてバロティーヌさんを置きほうれん草のソテーを載せてさらにバルサミコ酢を垂らす
という、行ったこともない外国のことを言うのもなんだが、多分まぁそのフランスの、田舎のビストロなんかで供される、凝り過ぎてはいないのだけれどもその食材の真価を十分に引き出すために心行くまで手をかけた、そういう郷土料理の雰囲気と言うものを彷彿とさせる、そういう味わいであったのだ。
それこそフランス料理といやぁ俗にバタ臭いなんていうくらいバタバタしているものだという古い世代なりの先見があったりもするのだが、やぁこの鶏の柔らかさは、鶏の旨みに余韻持たせる十分ながら引き際の美しい調味は、リゾットとの調和は、やぁこの芯に入っている質実剛健は砂肝と思ったらハツであった、トマトは酸味、大根人参はあくまで淡白で、鶏はなんともいえぬ滋味を孕み、そうしてほうれん草はかなりしっかりした鹹味で野趣を帯び、やぁ、こちらのシェフはそれほど原価をかけられぬだろうランチにその分手間を惜しみなくかけてこんなにも客を大事にしてくれようとしているのだなぁ、そうしてまた手間をかけることで食材一つ一つのよいところを惜しみなく引き出そうとしているのだなぁ、ああ自分はこういう店に巡り合えて誠に幸いである、善哉善哉、と深く感激し食事を終えたのであった。
パンもまぁ、お腹の余力さえあれば二つも三つも四つも五つも頂きたいと、そんな風に思ってしまうような美味であったのだが、仕様がないので一つに収めておいた次第。

で、このまましまいにしてしまうのが惜しくなって、というよりここのデザートに間違いのあろうはずはないという執拗なる確信に急かされた結果、普段は食べ付けないデザートまで頼むことにしたのだが、何しろほんとに食べ付けないものだからメニューを見てもさっぱりわからん。仕方ないので尋ねてみたのだが、尋ねてみてもやっぱりわからん。しかしわからぬながら注文はせねばならぬので
ガトーショコラ
ヌガーグラッセ
バニラのヴァシュラン
クレームキャラメル
各300円の中から
バニラのヴァシュラン
とやらを頼んでみた。
ヴァシュラン以外は知らない単語ではないというのにその正体がまるでわからんというのが口惜しくも情けない。
仕方ないのでヴァシュランはイギリス系のデンマーク人で15歳の少年、バロティーヌさんとは跳ね橋のある田園で出会って淡い初恋に落ちるということにする。
閑話休題。
ヴァシュラン君はこんな感じであった。

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簡単に言うと
アイスケーキ
である。
自分の考えたところでは
甘くしたクリームチーズ

バニラアイス

ナッツを砕いたもの
を型に入れて固めたものを切り分けてチョコレートソースをかけてみた
という辺りの見当ではあるが、何しろ甘味なぞほんとに食べ付けない人間の話である、信用するものではない。
これもまた
ものすごく濃厚で新鮮なミルクの風味
がして、誠にもって美味至極であった。
食後に頂いた珈琲も実に味わい深く、全ての余韻が余りに惜しくて懐かしくて、職場に戻ってからも暫くの間飲み物を口にしたいと思わなかったのである。

Bistro Marsanne
http://bistro-marsanne.com/
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ネコタ斑猫

  • Author:ネコタ斑猫
  • オリジナル百物語サイトバー理科室の管理人。本家サイトでは400字×20枚内読み切り短編連載中。死ぬまでに千物語を完成させるのが目標。
    プロフ画像は山田芳裕著「へうげもの」より。古織いいよ古織。
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