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あなたの心はもうそこにはいない。

以前職場に仕事をさっぱり覚えてくれない人がいた。
パソコン必須の職場で、エクセル・ワードが出来ることが応募条件の筈だったのだが
実際に一緒に仕事をしてみると、
驚いたことに
「名前を付けて保存」

「上書き保存」
の区別がつかない
という
なんというか色々な意味で重篤な人であることが明らかになった。

バックアップを取るべきファイルが珍妙な状態で上書き保存されていることに驚愕した先輩が、
「作業の前に別の名前を付けて保存はしなかったのですか? 」と尋ねても
「いやーどうしたのか記憶にないです」

はっきり述べちゃうような、そういう調子だったもので
かなり大変だった(控えめな表現)。

やらかすミスも実に想定外のものが多く
その人の次の仕事が決まった時
ほんとうに胸をなでおろすことになったのだが。

その人が次の仕事に移っておよそ一年。

ふとその人のことを思い出し
「あの人どうしてるだろうねー」
「もう次の仕事移ってるんじゃないだろうねー」
「いや二年契約だっていってたからそれはないんじゃないの」
などと同僚と話していたところ
「もしかしたらもう次の仕事に移ってるかもよ。」
と先輩が妙にほんとうらしい声音で言った。

「なんでそう思われるんですか? 」
と問うたところ

「仕事始めたときには、もう次に何の仕事やるか考えてるんだって。
いつもそうだっていってたわよ」

ファイルの上書き問題で苦労した先輩は、静かに、だがはっきりとそう答えた。

ああ、そうか。
あの人の心はいつもそこにはないんだ。
もう次の場所を探しているんだ。
だからあんなにも今ここに対してぞんざいだったんだ。

ということに考え至り、酷く得心した。

と同時に。

そんな人を金出して雇わなくちゃいけない未来の雇用主さま、ご愁傷様です('A`)
と心から思ったのであった。
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ネコタ斑猫

  • Author:ネコタ斑猫
  • オリジナル百物語サイトバー理科室の管理人。本家サイトでは400字×20枚内読み切り短編連載中。死ぬまでに千物語を完成させるのが目標。
    プロフ画像は山田芳裕著「へうげもの」より。古織いいよ古織。
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