スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

エーベルハルト・トルムラー著/渡辺格訳「犬の行動学」中央公論社

ローレンツに学んだ犬の繁殖研究家(かなり乱暴なまとめ)による犬を飼う全ての人に向けた啓蒙書。
何が面白いといって、この人が犬の近親種である狼やディンゴと共に犬を飼いその繁殖行動出産成長の様子を観察し人間が作り上げた犬という種のあるべき姿をあぶりだしたという点であろう。
現在飼育下にある犬は極めて特殊な環境で生育されている。種として研ぎ澄ますための繁殖、時には父母兄弟姉妹他の犬と隔離されての飼育が彼らの遺伝子と行動様式を二つながら破壊に追い込んでいるのだ。そこから犬を開放するための導がこの著書なのである。
犬の自然な生育過程にいかに父母兄弟姉妹他の犬が必要か、特に仲間とうまくやっていくために父犬が必要か、その描写はまるで人間と同一のようで驚いた。子犬がルールを覚えるには、父犬が必要なのだ。
また、狐狩りへの適性を診断するための人口狐穴とよく訓練された狐との追いかけっこの描写も実に面白い。狐穴を知り尽くした狐は犬を試し挑発し追跡させることで犬に狐の行動様式を教えてやるのだ。なんとも教唆に満ちたたとえ話のようではないか!
そして中でも衝撃的だったのが純血種というものがいかに生物学的に妥当でない条件からさだめられているか、ということだった。ドッグショーのスタンダードは見かけ上の美しさを求めるあまり犬の健康と脳の容量と正常な行動とを圧迫しようとしている。まずショーで定められている鋏状咬合というのが理屈に合わないらしい。鋏状咬合というのはヒトのように上の歯が下の歯の前に出るような咬合だが、本来の犬の咬合は切端咬合なのだそうだ。鋏状咬合では自力で蚤を噛み潰せないし、そもそれはあごの小さくなった退化のしるしなのだそうだ。他、求められる鼻面の長さや細面は結果的に頭蓋骨を小さくし結果脳の容量を小さくする。確かに狼に近いというシベリアンハスキーの額に比べボルゾイの額の細さは異常だ(美しいけれども)。また顔をつぶしすぎたせいで呼吸に異常を起こしやすいブルドッグの話など、繁殖家たちが犬種というものをどの方向に向かわせたいのか、わからなくなってくる。
しかして私が最も驚いたのは純血種繁殖において著者が兄弟姉妹繁殖を進めている点だ。これにより劣性遺伝子が明らかになるのでそれを取り除く方向で繁殖を進めてゆけば問題がない、というのだ。倫理的にどうなのか? とひっくり返りそうになったが、(もちろん色々なことを想像したとも! )生物学的に近親婚が躊躇われるのは確かに劣性遺伝が顕在化するため、そうであれば劣性遺伝子が長く引き継がれるのを避けるためには近親婚により顕在化させるのが一番ではある。
なんかもう大変なことになっている犬の世界。犬にとってこれは幸せなのか? と疑念も起こるが、既に犬はそういうふうになってしまっているのだから仕方ない。せめて「より不健康な」遺伝子が純血種繁殖によって蓄積されるのを避けながら、将来的にかかわりを持つだろう多くの生物種と様々な世代の人、そして何より同じ犬の仲間と触れ合わせ、心身行動様式ともに健全な犬になるよう導いてゆくほかないのであろう。

犬の行動学
関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

ネコタ斑猫

  • Author:ネコタ斑猫
  • オリジナル百物語サイトバー理科室の管理人。本家サイトでは400字×20枚内読み切り短編連載中。死ぬまでに千物語を完成させるのが目標。
    プロフ画像は山田芳裕著「へうげもの」より。古織いいよ古織。
検索フォーム
最近の記事
カテゴリ
リンク
最近のコメント
月別アーカイブ
RSSリンク
全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

最近のトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。